【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第3章 3分の1でも選ぶとは限らない
「ていうか、治のことが好きってホント?」
「......なんで? どっからの噂?」
先を歩く水田さんが振り返ることもなく問いかける。風の噂、と答えると水田さんは振り返る。困ったように眉を下げ愛想笑いを浮かべた。答えることもなく、ただそれだけだった。
「どっち?」
「……うんって言ったら、私どうなっちゃうの?」
「どうって、別にどうもしないけど…、話の話題だよ」
「ふぅん」
沈黙、少ししてスッとしたトーンが耳を通る。
「.......................................気になる?」
歩んでいた足が止まりそうになった。地震で地面が揺れているみたいに、足をしっかり地面につけて歩かないと傾いてしまいそうな、強い風が吹いて千鳥足になってしまうよな、そんな感覚。
風の噂とは最初に言ったものの、これは、完全に『俺』自身への問いかけだった。嗚呼、違う。そんなんじゃない。
「あー、ごめん。そんなつもりじゃなかった。全然忘れて、」
俺は今の関係が崩れるのを恐れていたのかもしれない。回答に困って、すぐにはぐらかした。正直無理に聞き出すのも元々俺のやり方じゃないし。別に気になってる訳じゃない。本当にただの話の話題で言っただけだ。
「嫌いじゃないよ」
それなのに、無意識に、呼吸が止まった。時間すらも止まってるような感覚になる。
「いい人だと思う、治くん」
歩く先に視線を向けたまま水田さんが不意に呟いた。妙に風の音や車のエンジン音が強く感じ既視感を抱く。
俺が勝手に、自分で聞いたくせに、酷く動揺していた。拒んだ答えが返って来たからだ。
いいや、まさか答えてくれるなんて思ってなかったからと言う方が正しい。だって、そういうの絶対、今までだって――――。
〝「誰? 彼女?」〟
(あぁ、なるほど。お互いさまってわけか――――。)
身体を横に揺らしながら上機嫌に前を歩く水田さん。こういうの真に受けないような奴で本当に良かったと心から思う。あんな渋ってたのに、話が早くて、本当に嫌ってほど助かってる。
あー、またこれだ。この感覚、俺は知ってる。俺のミスで、ボールが落ちて点を取られる瞬間と同じだ。同時に。何となく、.........本当に何となくだけど、俺は水田さんからその〝一点〟を、取り返してみたくなった。