【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第1章 喧嘩止めたら殴られた。
それに、……なんか思ってたより真面目に答えてくれたことにびっくりした。って言ったら多分、普通に怒られると思うからこれは言わないでおく。
「あれ、お礼は?」
「…………ありがとう。パンいる?」
「いや、なんでそうなんの」
「おいしいよ」
そう言って問答無用にカバンからゴソゴソと取り出したのは林檎の木が描かれた紙袋。中には塩パンが一個入っている。もちろん食べかけなんかではない。
「あー、そのパン屋。美味しいって聞いたよ」
「あ、そうなんだ……」
なぜか心当たりある者が一名おります。そういえばこれも口止めするのを忘れていた。でも角名くんを見るにはまだ知られたくない所は知られてないからセーフだ。
もしかすると侑くんは意外とそんなベラベラ喋っちゃうような口の軽い人じゃないのかもしれない。ずっと偏見だったけど、すっごく明るいし見た感じ明らかに犬系の男子っぽいし、何なら近所の柴犬に似てる。結構勢いで喋っちゃいそうなのに、〝人が嫌がることはしない〟そこのボーダーラインは治くんを省いてきちんとしているのかもしれない。
「ありがとう。じゃあね」
差し出せば素直に取りに来てお礼を言う角名くん。思っていた以上に何事もなく、その後は手をひらひらと振りながら教室を後にした。
私は教室の戸を見つめたまま呆気に取られていた。いつもの角名くんだったら、もっと、こう、意地悪をしてくるはずだ。彼はそういう人間なんだ。そうなんだよ。それなのに、今日はまるで嵐の前の静けさのようなくらい不気味な感じで逆に気味が悪くなる。
……もしかして今日、地球終わる?