第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
「待て!おいッ!止まれ!!」
夕焼けの廊下。スピーカーから追い立てるようにドクターの声が響いた。
「<<以上12名はA4ブロックに集合せよ>>」
「うっ…!」
そのアナウンスが終わると同時にエンカクはさくらに追いつき、手首を骨が軋むほどに握った。
「これで3度目だから!!初陣じゃないです!」
「フラついただろう!?犬死するぞ!代わりにオレが行く!」
「煩いこの死にたがり!!」
「お前にだけは言われたくないッ!」
「戦いとはそういうものだって、今さっきアンタが言った事だ!どうして止めるんですか!!」
「!」
その言葉にハッとした。何故こんなにも自分は必死に止めているのだろう、と。
その気が緩んだ一瞬のうちに、さくらはまた走り出して行った。
「…何故止める…?………決まっている。お前を見ていると…俺は―――」
広い背中を撫でるように、黒い何かが過ぎて行った。
顔を上げたエンカクの口角はこれでもか、と言わんばかりにつり上がっていた。
彼の脳裏には、殺意を放ちながら術を使う彼女の姿が変わらずそこにいた。