第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
デッキはオペレーターや研究員などの人でごった返していた。その間を縫って一番前に立った彼は肌で感じる殺意にブル、と肌を震わせた。
デッキ中央にいるのは、あのニヘラ笑いを浮かべていた女、さくらだ。そして、その前に立っているのは背もガタイも接近戦戦闘向きの体を持ったサンクタ人だった。
「さくら、もうやめませんか」
「はー…私の、私の大事なもん奪っといて…ッ君は、絶対許さない…!!」
さくらの顔にあの笑みはない。ただあるのは憎悪で歪んだ表情のみ。
何故あんなに憤慨しているのかはわからないが、見ているだけで彼の闘争本能が掻き立てられた。
気が付くと足は前へ前へと差し出され、殺伐としたその二人の間に立っていた。
「よう。さっき振りだな。何故そんな昂ってるんだ?」
「…エンカクさん、退いて。怪我するよ」
「ハッ!誰にものを言って―――」
言葉を止めたのは、あっという間に視界を赤く揺らめく炎が覆ったからだ。その炎は全てを焼き尽くす地獄の業火そのもの。
肌が焼け付くその温度にゴクリ、と唾を飲み込み、得物を抜きたい衝動を抑えながら、先程からサンクタ人を睨んでは視界に捉えて離さないその目を一瞥する。
その後、ここから見える二階のはめ込み式の窓から、焦ってこちらに来ようとするドクターの姿を見た後、深い溜息を吐いた。
「おい、冗談が過ぎる。そこまでにしておけ」
「冗談?…私の、…15時に食べるはずだった…ススーロちゃんが1日かけて作ってくれたスイーツのフルコース食べられたのに冗談!?馬鹿言え、絶対ぶち殴る…!!」
「は?」
声色に重みはあったものの、言っていることが羽のように軽く、簡単にエンカクの目を丸くさせた。