第5章 リップクリームチャレンジ【アドナキエル&スチュワード】
「…ごめん、さっきのやつで興奮しちゃった」
「は!?」
それが何の意味を示すのか。
片手で数えられるほどの回数ではあるが、体を重ねてきた私にとってその意味は察するに余りある。
「まぁこれから夜だからいいんじゃないかな?」
「いや良くないよ!明日結構朝早くなかったっけ!?」
「まぁこの体勢で俺も興奮しちゃったんだけどね」
「何言ってんのかな!?ちょ、やっ…馬鹿じゃないの!?」
後ろから伸びて来た細い指が服の中に入って腹を撫でる。それに背筋をゾクゾクと撫でられ変な気持ちになっていると、目の前で私の頬を撫でたスチュワードが笑った。
「じゃあ、シながらこのリップ当てゲームしよっか」
「何それ!?」
「楽しそう。じゃあ、全部当てれるまで終われないことにしよ?」
「ちょっと待っ…」
反論を小さなキスで抑え込まれる。その味は未だわからない。仄かに舌の上に残る果実の味を把握するのは難しい。よって、この先迎える夜が長いことが証明されたも同義。
アドナキエルの手によって、リップのパッケージがスチュワードの頭元に並べられていく。可愛らしいデザインが今や憎らしい。
「さてさくら。アドナキエルのと併せて8種類だ。早く終わりたかったら頑張って神経研ぎ澄ませてね」
そう楽しそうに言ったスチュワードの手にはこんなに要らないだろう、と誰もがツッコミを入れそうなリップクリームがこちらを嘲笑っていた。