第3章 あの子のことが好きな君を殺す【アドナキエル】
「た、助け…誰か…!!助けて…!!スチュワード…!!」
そう、自分が真に大好きな、狐の彼の名前を叫んだ時だった。
手馴れたように刃物をくるりと回し、何の躊躇もなく振り下ろした。
鋭い痛みが肩の関節に走る。
「う、ぁああ!!!い、た……っいた、い…!!」
「俺が今君の口から一番聞きたくない名前を言わないで下さい。…俺の名前だけ、呼んでください。さぁ」
「う、ううっ…」
「呼んで。俺の事」
血の付いた刃先を横目に、ギュ、と目を瞑った。
「ッ…アドナ、キエル…」
「…そう。良い子ですね…そうやって俺の事だけ見ていればいいんですよ」
ネト、としたものが熱い痛みを発している傷口に這った。まるで傷を舐める動物のように。自分で傷をつけたくせに。
「大好きですよ、サクラ」
歪む視界で金色の目は楽しそうに、されども愛憎で狂ったように細められた。
fin.