第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
「何故そう思った?」
「彼女の隣がとても居心地良いんです。他者を慮り、慈しみ、自身の犠牲を厭わない。…平和の象徴のような彼女の隣は、私にとってどんな場所より休息ができる場所だと思えるのです。…居心地の良い場所など、私には必要ないと思っていたのですが」
羽を下げたイグゼキュターに、今度は人差し指をフラフラと動かしながらドクターが言い返す。
「…もし本当にお前がロボットなら、それはどこかしらの部品が破損しているんだろう。だが、お前は人間だ。…人間なら、誰しもが持つ感情の一つだよ」
沈黙が流れる。
水色の目は、早く続きを言えと言わんばかりにドクターを見下ろしているだけだ。
それに気付いた彼は、ハッとして小首を傾げやや後ろに仰け反った。
「何だその顔は。知らないとでも言うつもりか?」
「知りません」
「はーっ…恋してるんだよお前は。さくらに!」
「恋?それは一体?」
「…お前やはりロボットだったのか…?」
質問に質問で返したドクターは深く長い溜息を地面に放った。まさかここまで常識的なことを知らない男だとは思わなかったようだ。
だが、人間は本能には抗えない。理解はしなくとも、そういう感情を持った時点で決したようなものだ。
「まぁ、さくらをそういう風に思うなら、好きだ愛してるだ何だと言えばいいんだよ」
「好き、愛してる。ですか」
「うわ。その言葉が世界一似合わない男で優勝するぞお前。…ま、まぁそういうことだ」
「ふむ…」
顎に手をやったイグゼキュターは考える姿勢を取り始める。
その姿を見て、鼻から息を吐いたドクターは後ろの壁に凭れ掛かった。丁度そんな時だった。
「ドクター」
ひょこひょこと近付いてきたのはアンセルだった。その姿を見てドクターは思わず立ち上がり、一歩前に出た。
「!アンセル。…さくらの容体は…」
「大丈夫です。ケルシー先生のお陰でもう意識もしっかりしていますし、話せる状態ですよ。…あの元気はどこから出てくるんでしょうね」
「!は、はぁ…良かった…って、待て待て待て待て!イグゼキュター!会いたい気持ちはわかるがちょっと待て落ち着け!」
「イグゼキュターさん!」
突如スタスタ、と歩き出した大男を止められるものはいなかった。