第11章 過去
「士郎たちの家には、俺の知らないものが山ほどあった。物理的なものだけじゃない。家族の暖かさとかも、俺は知らなかったんだ。家族みんなで囲む食卓とかは本当に暖かくて、居心地が良かった。おじさんとおばさんも優しくて、泊まりに行ったりすると俺も吹雪家の子供になれたような気がしたんだ。それこそ士郎とアツヤは兄弟みたいに接してくれたしな。これが当たり前なんだってそこで初めて思い知らされた。俺って無知じゃん。って。そう思ったら知りたくなったんだよ。もっと外の世界を知りたい。もっと当たり前になりたい。って思った。」
「外に出ることは許されてなかったのか?」
「うん。俺の部屋は多分地下にあるんだ。正直、わかんねぇけど。これに関しては多分士郎の方が詳しい。俺が外に出る時はいつも目隠しと耳栓で完全に視覚と聴覚を失った状態じゃないといけなかったんだ。だから、俺は自分の部屋に1人で帰ることすらできない。外に出たくても出れなくて、母さんの言うことが普通じゃないって気づいて、俺は母さんに反抗的になっていったんだ。それまでだってすごい優しい母親だったわけじゃない。できないこととかあると殴られるなんてのはよくあった。でも、俺が反抗的になればなるほど母さんも俺を縛りつけようとしたんだ。それで、だんだん母さんが怖くなったんだ。そんな状況でも、父さんは優しかったし、長期休みになれば士郎とアツヤに会えるって思えばなんとか我慢できてたんだよな。なのに、父さんは俺のせいで死んだんだ。ちょうど同じ時期に士郎たちと連絡が取れなくなった。そもそも、いつも父親同士が連絡を取って会ってたんだ。俺の父さんが死んでしまった時点で士郎たちと連絡の取りようがなくなったのに、おじさんもおばさんもアツヤも同じ時期に事故で…。」