第9章 大阪にて…
みんなは楽しそうに特訓をする中、吹雪だけは違った。何か焦っている。
椿はそれをただただ見ていた。
今の自分の声は届かない。見守ることしかできない。
椿は吹雪の練習を見守りながら寝てしまった。
少し休憩をする士郎は椿の隣に座り椿の頭を撫で、寝顔を見ていた。
「なんで自分の練習には行かないの?」
吹雪は独り言を漏らす。
「吹雪!北条!」
そこに鬼道がやってきた。鬼道の声に目を覚ます椿。
「北条、起こして悪いな。」
「別に平気。」
「お前らもディフェンスの練習に参加してくれないか?」
椿と吹雪は頷いてディフェンスの練習に加わる。
2人の実力はやっぱり凄い。特に吹雪はフォワードとしての力もある上で、だ。鬼道は柄にもなく、もう1人吹雪がいてくれたらなんて考えてしまう。
「やめだ、こんなトロいことやってられるか!!」
吹雪は急にシュート練戻ってしまう。
雷門のみんなはまたボールを持った時の熱い吹雪になったと思うが、いつもと違う様子に少し驚く。
椿はそんな吹雪を見て、アツヤの暴走を感じていた。
「鬼道、やばい。あいつ、やばい。もう俺じゃ無理だ。俺じゃ止められない。俺の声じゃ届かない。嫌われてる俺じゃ、何もできない。」
椿は鬼道に一方的にそう言うと1人外に出て行った。
「北条!」
それを近くで聞いていた塔子。
「おい、鬼道。今の北条の、どういう意味だ?」
「どうだろう。わからないが、北条にしか分からない吹雪の何かがあるのだろう。」
「何か?」
「北条はたまに吹雪のことを"アツヤ"と呼んでいた。普段は"士郎"のはずだ。それに、アツヤなんて名前聞いたことがない。それがきっとあの2人にしかわからない何かのはずだが、俺にはそれ以上はわからない。」
「鬼道でもわからないのか。」
「ただ、北条が言った『止められない』と『俺の声じゃ届かない』の意味がわからない。それにあいつは、『嫌われてる』と言った。少なくとも吹雪は北条を嫌ってる事はないと思うんだが、」
鬼道は椿が出て行った扉の方を見つめた。