第12章 炎のストライカー
「きーくんが初めて外に出た日、一緒にいたんだ。『この子はこんなことも知らないんだ』って衝撃的だったからよく覚えてる。あれは小学1年生の冬休みでね、きーくんが初めて北海道に来た時だった。太陽とか空とか雲とか雪とか、見るもの全部に対して『これなに?』って聞いてくるから教えてあげると、『これがそうなんだ。こんな形をしているんだ。』って。言葉で知っていても実際に見たことがなければ知らないのと同じだよね。なのに実和子さん『これは椿のためだから』とか言ってて。何ヵ国語話せようと、広辞苑を丸暗記してようと、きーくんのためにはなってないよ。実和子さんがすぐに暴力を振るうのも『椿のためだから』って。そんなのあって良いわけない。」
「それで北条はお母さんが怖いんだな。」
円堂が椿の方を見ながらそう言った。
「そんな環境で育てば精神も不安定になるか。」
鬼道も円堂と共に椿を見た。
そして吹雪は話を続ける。
「きーくんは昔からずっと実和子さんに従って生きてきてるんだ。そういう生き方しか知らないんだ。それなのに今、あんなにお母さんを怖がってたきーくんが実和子さんに逆らってサッカーをやるためにここにいる。だから、きーくんは常識から逸脱してるところもあるけど、これからも仲間でいてあげて欲しいんだ。僕から、これだけは本当にお願いします。」
吹雪は長い長い話をそう締めくくり、頭を深く下げた。
「当たり前だろ?確かに勝手に試合中に寝たりしてよくわかんない行動を取ることもあるけど、それが北条のいいところだよ。これからも変わらず仲間だ。」
「キャプテン、ありがとう。」
吹雪はそう言って頭を下げた。
「なんだか暗い雰囲気になっちゃったね。ごめん。」
「そんなことないわよ。吹雪くんが話してくれてよかった。よし、もう暗くなってきたし夕飯にしましょう!みんなお風呂入って集合ね。」
秋の明るい掛け声によってみんなはそれぞれに動き出した。