第7章 前の会社
静かな空調が効いた部屋。
部下の中でも一番お調子者の安村が
夏場で暑いだろうと気を利かせたのだろう。
「寒くないか?」
「…だぃ、じょ…ぶです」
近付く前に声を掛けたから、
それなりに口を開ける状況ではあるということ。
さて、どうしようか。
俺は男女ともにモテるし、
モデルという肩書で
芸能界にほんの少し踏み入れた。
そういう人を知っているし、
見てきたし、
告られたこともあるし、
断ってなかったら身を案ずる
状況もしばしばあった。
だが俺のように、
この社会全体に免疫があるわけじゃない。
同性愛という抵抗ある日本の風潮。
今回は俺じゃなく、湊単体への挑発。
これは受け流すことはできなくて、
受け止めてやるしかない。
(なんて言葉をかけてやればいい…)
必ず力になってやる
部下を守るのが俺の務めだ。
──…なんて台詞吐いておいて、
何もできないのは俺のプライドが許さない。