第35章 美容院
朝起きたら主任からメールが来ていた。
『調子はどうだ?
無理してくるなよ。
テーブルの上に体温計おいたから
出社前に報告するんだぞ』
労わりのメールかと思いきや
なんだか牛垣主任らしい上司命令。
「どこのお母さんだよ」
面倒見のいい人だとつくづく思った。
テーブルの上にあった袋の中には
たしかに新品の体温計があった。
適当に報告しても良かったのだが
もう一回計りなおしてみろとか
言ってきそうな気がして
素直に検温する。
「36.7度か。これなら問題ないな」
平熱だということを示すと
可愛らしいスタンプがぽちっと送られてきた。
なんだこの人のギャップは。
部下全員にこうなのか?
いや、全員とはならないか。
鹿又さんとか年上で
その辺は流石にわきまえているだろうし。
「よし。」
昨日休んだ分を取り返さなければ。
牛垣主任は仕事で返してくれって
言っていたし。
それ以外にも何か返さなきゃならない。
現金だと絶対に
受け取ってはくれないだろう。
会社に到着すると
真っ先に牛垣主任のもとにいった。
「牛垣主任、おはようございます。
昨日はお手数をお掛けして
大変申し訳ありませんでした。
それと…朝ごはん、美味しく頂きました。
ありがとうございます」
「おはよう。
顔色も戻ったな。
これなら嫌々検温しなくても大丈夫そうだ」
「おかげさまで」
大きな声で言えることじゃないから
お礼の部分はこっそりと。
安心したような笑みを浮かべ
牛垣主任は
少し声の質量を落として聞いてきた。
「昼食、一緒に食いに行くか?」
「えっ…、あ、その、」
「今日は弁当持ってきてないんだ。
だから付き合ってくれ。
肉と魚、どっちが好きだ?」
俺の心配をよそに聞いてきた。
昨日遅くに帰ったから
愛妻弁当を
作ってもらえなかったんじゃないかと。
そうだったら大変申し訳ない。