第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
ケンジの出所の手続きが済むまで
受け入れセンターで
刑務所よりは待遇の良い独房で過ごしていた。
高校の時から一緒にいてくれたチェイス。
今までそんな素振りさえなかった。
友達以上のことなんて。
「チェイス……」
チェイスの両親には合わせる顔がなかった。
優しい人たちだったからこそ
自分たちを戒めると思ったからだ。
チェイスの両親は
会いたがらないケンジを知ってか
ミーシアを通して
部屋にあったチェイスの遺品を寄こしてきた。
チェイスの想いが綴ってあった何枚ものページ。
我慢できなくなって
ケンジは両親のもとに顔を出した。
「どうかあの子を嫌いにならないで」
「すまない。ケンジくん。
私たちはずっと気付いていた。
息子は器用にみえて
とても臆病で不器用なんだ」
チェイスの両親は遺品整理前から気付いていた。
兄のラルフも気付いていたそうだ。
チェイスは小さい頃からケンジをみていた。
それがゲイであることに気付き、
ひた隠しにするために
プレイボーイを演じていたという訳だ。
思い出せば「お前の顔きれいだな」って
暇があればスケッチされていた覚えがある。
「漫画家になるのか?」って聞いたら
「アシスタントになってくれるか?」
とクエスチョンで返してきて、
「冗談だろ」と受け流していた。
ところどころ何気なく
不器用な口説き文句を聞いていたらしい。
「俺も好きだよ、チェイス。
今でも大好きだ。
お前は俺にとって最高の親友だから」
チェイス・ヒューレットの墓石を指で辿る。
チェイスのことは好きだけど
死人と続けないように
想いに答えることができない。
ケンジの心には今も
死んでいるのか
生きているのか
忘れようにも忘れられない
いまだ正体不明の男が占めていたからだ。