第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
姿勢を低くして状況下を探る。
頭から血を流した囚人が
こちらに向かって歩いてくる。
しかし無残にも
後ろから銃撃を浴びて
頭から倒れて行った。
「ケンジ。
死にたくないなら全力で走れ」
「言う通りにするッ」
煙が舞う中でみえてきた人影。
犯人が分かると思ったが
セドリックに呼び掛けられる。
ケンジは強く頷くと
セドリックの背中を追いかけて廊下を走り、
貯蔵庫の方へ足を向けた。
「リプソン! どうなってるッ」
「トレイシー。
マスターキーを寄こせ。
奴を仕留める」
「分かった。俺は引かせてもらうぞ」
「こいつも安全な場所へ頼む。
大人しい模範囚だ」
「セドリック。お前……」
トレイシーは腰に下げていた
鍵をひとつ
囚人であるセドリックに手渡す。
これは何を意味するのか。
「──…ケンジ」
「行くな。
お前なしじゃ生きていけない…っ」
一人で立ち向かおうとする。
このままでは
永遠に逢えなくなってしまう。
綺麗な青い瞳が最後に覗き込む。
「お前も一緒に連れていきたいよ」
額を擦り合わせて薄く微笑んだ。
まるで死んで行くみたいに
笑いやがった。
ケンジは離れていく瞬間に
かすめる程度の口付けを押し付けた。
「お前の幸せを、心から願っている……」
ケンジは溢れそうな涙を堪えた。
最後に泣いた顔を見せたくなかった。
セドリックの前では
泣いてばかりだったから。
戦場に向かっていく奴を
笑顔で送り出して、
どうか生きていてほしいと願いを込めて。