第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
セドリックを知ろうとするたびに
離れていく理由がなんとなく分かった。
(俺にしかできないこと……)
ルキノやウォーカーの痛みは緩和できたのに
セドリックの患った傷は
深い心の痛み。
優しくされるたびに
他の囚人より
大切にされている感じはあるけれど
主従関係以外の何者でもない。
セドリックのことが好きだと気付いても
相手にしてくれないのが関の山。
(男同士、囚人同士、
そもそも受け入れられてない時点で
問題ありまくりだな……)
これ以上、セドリックを想っていると
頭がおかしくなりそうだ。
これが恋の病。
「……っ」
目を瞑っていると上のベッドで眠る
セドリックの寝返りを打つ
布が擦れた音が聞こえた。
意識して全然眠れない。
(何とかして眠らないと。
明日から仕事復帰するのに
これじゃあ寝不足になっちまう……)
他のことを考えなければ。
セドリックの家族と二歳年上の恋人。
家族水入らずで恋人と過ごしていた。
どんなご両親だったのだろう。
兄弟は何人いたのだろう。
セドリックは何番目だろう。
確実に長男ではないな…うん。
恋人も気になる。
どんな仲だったのだろう。
どんなことを話したのだろう。
どっちから告白したんだろう。
どんな場所で遊んで
何が一番思い出に残っているのだろう。
(知りたいのに
避けられるのが恐い……)
必要以上に接したら
気持ちに気付かれて
避けられる可能性もある。
バートンが言っていたように
色気づいた少年になってしまう。
それに……
走行しているうちに
見回りしている看守の懐中電灯が動き、
寝たふりをする。
(デイジーのことも
ハッキリしてないのに……)
セドリックの気持ちは
いまだ過去に存在するのか。
それとも目の前にいる美女に移ったのか。
ケンジは自分が
男として生まれたことに後悔はないが
セドリックの子分として、
嫉妬ばかり募らせる小さな心を
醜く思ったのだった。