第33章 𝐋𝐎𝐂𝐔𝐒 *
「ケンジ」
「もういいんだ。
泣いたのはそういう事じゃない。
俺はどんなに苦しくても耐えてみせる。
もしどうしても許せなくなったら
自分の手で殺したい。
セドリックに罪を背負わせたらそれこそ
一生自分を許せなくなる。
頼むから馬鹿な真似はしないでくれ」
「……フ。お前はそういう奴だよな」
布団をぎゅっと掴むと
セドリックの固い表情が緩んで
手を重ね合わせてくれた。
セドリックの温かなぬくもりは肌を通じて
どんな励ましの言葉よりも安心できて
何倍もケンジを勇気づけてくれる。
包み込むように強く握りしめられた手をみて
安堵したらまた眠たくなってきた。
「ごめん、セドリック。
夕ご飯はお前にやるよ」
「わかった。
食べる気になったら呼んでくれ。
必要なら添い寝してやる」
「ここで寝る気かよ」
「それくらい俺は信用されてる」
「何か弱みでも握ってるのか?
って聞きたいけど大丈夫。
じゃあさ、
帰る前に一声掛けてくれ。
今はそれだけで十分だから……」
ケンジは甘えた言葉を口にして
恥ずかしくなった。
気恥ずかしくて頬が熱い。
盗み見るように視線を上げると
揶揄うこともなく
セドリックは穏やかな表情を浮かべていた。
「分かったよ。
帰る前に必ず声をかける。
眠ってても俺の目をちゃんと見るまで
叩き起こすからな」
「頼んだ。ここには時計がないから
体内時計が狂いそうなんだ」
「聞いて損した。俺はお前の目覚まし時計か」
「仕事がんばれよ」
「言われなくても扱き使われてる」
セドリックの甘い声がくすぐったくて
ケンジは照れくささを隠すように
皮肉を言った。
案の定、セドリックにこの気持ちは届いていない。
安心した気持ちのまま
まどろみの中に意識を手放した。