第1章 ~牛垣武明の場合~
アルコール濃度も感じてきて、
転社してきた部下のことを話す。
「へえ…。
前の会社でのこと、
何も聞かされてないんだ」
「ヘンな話だろ。ユウはどう思う?」
ユウ、とは高校時代からの呼称。
祐次郎だからユウ。
俺は武明だからアキの呼称で呼び合っている。
「訳アリなのは確定だけど、
本人も話ずらいこともあるだろうし
まずは、
もう少し様子を見たら?」
「やはり様子見か…。
ユウがそう言うなら」
学生時代の俺なら、
迷わず首を突っ込んだであろう。
しかし今は社会人。
しかも相手は直属の部下。
立場と時代が異なり、
手出ししようにも見守ることを選んだ。