第28章 職場キス
副部長は長い溜息を吐き出すと
長々と説教することもなく、
差別的発言を繰り返すこともなかった。
ただ俺が思うに、
同じ空気を吸ったり
顔を見たくないほど
怒っているんだろうと肌で感じた。
「今後一切、
息子に関わらないようにしろ」と
言い放たれ、
副部長室を静かに後にしたのだった。
(……辞職願、書こうかな)
このまま会社に居続けても迷惑だろう。
ゲイがいるなんて気分も悪いはずだ。
長居すれば
長瀬にも迷惑をかけてしまうかもしれない。
俺は女を好きになるんじゃなく
本能的に同じ男を好きになる。
真性のゲイだ。
それはとんでもなく道徳に反して
間違っていて
気持ち悪いこと。
社会の不適合者。
男として生まれたのに、
同じ男を好きになる。
努力したけど止められなかった。
否定することなんて出来なかった。
長瀬がこんな自分を受け止めてくれて、
キスをして
包み込むように抱いてくれた。
「長瀬…っ…」
会いたい。
「長瀬…っ」
顔が見たい。
話がしたい。
あの太くて逞しい腕で
最後にもう一度、
強く…。