第25章 一度だけ *
2月の空は真っ暗。
白い息なんか出てきて、
ガチャッ…と
外よりも温かみのある玄関の灯りがついた。
「狭いけどあがって」
「…、…」
おじゃましますの声が出ない。
そこまで寒くないのに指先が
ジンジンと冷たくなって
小刻みに震える。
(あ…。先生の匂い…)
家の中に進むにつれ、
先生のコーヒーと混じった甘い匂いが
鼻の奥をくすぐってくる。
家の中には本がたくさんあって
パソコンの周りには資料が散らばっており、
テーブルに出しっぱなしにしていた
物を片付けはじめる先生。
「適当に座っていいよ。
飲み物どうしようかなぁ…。
温かいミルクコーヒーでいい?」
「あ、はい。お構いなく…」
これが先生が生活している空間。
目の見えるところにはシングルベッドがあり、
喉から心臓が上がってくるくらい
ドキドキしている。
(ブラウン系のベッド。
…なんかちょっと大人だ)
布団もシーツも枕の色も
暗めのブラウン系で統一され、
ますます心臓の音が加速されていった。