第24章 初デート
映画で泣くなんて何年ぶりだろう。
ほかの観客同様に立てなくなってしまい、
持ってきたティッシュも尽きてしまう。
先生から借りたハンカチで
抑えつけるように
涙を拭き取った。
「……すみ゛ません。
ちょっとグッと来てしまって…」
「最後の言葉は
加害者たちに伝えたようにも聞こえたけど
視聴者にも向けれらた、意味深なメッセージだったね。
それはそうと映画の内容はネガティブだけど、
主題歌は良いメロディーだよね。
イケメンで演技も歌も、
英語の発音も上手いって羨ましいよ。
あ。彼女情報だけど
来週ミュージック番組で生歌披露するって
インスタに書いてあったんだって」
泣いた俺を気遣って明るい言葉をかけてくれた。
それにしても橋爪先生の彼女は本当に
牛垣秋彦の大ファンらしい。
俺も家に帰ったら
ほかの作品とか見ようかなと
にわかファンになりつつあったり…。
「角くん。カラオケ行く?」
「っえ、いや…。俺全然歌えないから」
「あはは~実は僕も。
言ってみただけ。
お腹も減ったし、なにか食べに行こうか。
外は寒いから
温かいもの食べたいよね~」
先生との初めての食事。
お腹を満たしたあともまだ付き合ってくれて、
夢のような時間を過ごす。
(海外行く前に思い出できて、良かった…)
橋爪先生との時間を精一杯楽しみ、
終わって欲しくないのに
だんだん日が暮れてきてしまう。
「もう5時か…。早いなぁ。
そろそろ帰らないと親御さん心配するよね」
「…そう、ですね」
まだ一緒にいたいけど
先生には大切な彼女がいる。
離れたくないけど
先生には帰る場所がある。
最初から何も期待しないようにしていたのに
特別扱いされたことに
余計に期待して、
ぐっと気持ちを押し殺す。
「先生。今日は楽しい思い出を」
「うち来る?」
「っえ…?」
聞き間違えかと思った。