第16章 清算
頭では忘れようとしても、
あの部屋は忘れることがどうしてもできない。
壁一面に俺の写真が貼られていた光景。
右も左も、
天井を見ても、
出入り口の扉にも
気色が悪い異常性だった。
「なあ。大丈夫か?」
「あぁ…問題ない」
忘れたいのに忘れられない。
ネガティブ思考になんて滅多に陥らないのに
長瀬にされたことは
俺の人生の中で
一番、最悪なことだったのかもしれない。
「これで…終わった…」
離婚も法廷も何もかも。
家に帰って、
ソファーに座って一人でボトルを開ける。
家族アルバムは車の中に積んでいて、
千恵美に全部送ることにした。
持って行かなかったのは
どうやら父親だった俺を
佑都に認知させまいとしたとのこと。
けれど無粋にも
結婚アルバムがなかったことを聞くと
未練があるように視線を泳がせる。
本当の父親ではないが、
佑都が大人になって
見たいといえば見せてやってもいいと思った。
俺の手元には1枚の写真があれば十分。
「湊ともちゃんと写真撮りたいな」
家の中や近場じゃなく、
少し遠出したり海外旅行へ行ったりしたい。
湊との写真はカットモデルをした時の
秘蔵写真のみ。
暗くて下向きのことばかり考えず、
湊と歩む明るい未来に祝杯したのであった。