第10章 取り調べ
「少なからず、
あったと思います」
あのとき猟奇的なことまでは見抜けなかった。
今までの経験や感じ取ってきたもの、
浴びてきた視線の中で
万が一の用心に備えて連絡を取ったのだ。
「それなら何故、
長瀬の部屋について行ったのですか?
好意に気付いていたんですよね?」
「最初は、
エントランスで待つと…いいました。
けれど奴は、俺に見せたいものがあると。
奴の好意には
少なからず気付いていたのは…確かです。
けど俺は非力な女じゃない。
それに、あの部屋を見せられて…」
「どう思いました?」
「何も、言えなくなりました。
困惑と硬直で動けなくなって…、
逃げようとした時にはもう…」
「長瀬とはいつ知り合ったんですか?」
「直接顔を合わせたのは、今回が初めてです。
長瀬の父とは
何度か会合をしたことはありますが…。
そのとき、紹介された覚えはありません」
長瀬の父に息子がいるというのは
聞かされていた。
場所は違うが、
同じ会社に働いているということも耳にしていた。
だが顔も声もどんな奴なのかも知らなかった。
長瀬が一方的に俺を知っていた。
高校時代から、
つまりはモデル時代から見ていたのだ。