第9章 濁音 *
ギリッ…
「…ッ」
「これ以上暴れないでください。
死んじゃいますよ?」
後頭部を殴られて身を守ろうとしたが、
何もかも遅かった。
長瀬の方が上。
日頃から肉体維持のために身体を鍛えていたが
情けないことに力も敵わなかった。
「くッ」
食い込むほど肉体を締め付ける縄。
ガムテープも巻かれて拘束される始末。
激しく抵抗していたから
脱がされたのはジャケットだけ。
スラックスは無事。
ワイシャツには俺の血が付着してしまった。
「綺麗なお顔に傷つけるつもりは
なかったんですが一発はごめんなさい。
早く冷やすべきなんでしょうけど…
いい眺めですね。
唇が切れて、牛垣さんの紅い血液が
まるでルージュのように潤って美しい」
長瀬は指を伸ばして下唇に触れ、
俺は反撃のつもりで
指を噛み千切ってやろうとした。
「おおっと。狂犬ですね~。
これは躾甲斐がありそうだ」
「っ…ふざけるな。
副部長の息子だろうがなんだろうが
俺に手ェ出してタダで済むと思うなよ」
「それはどうでしょうかね?
もっと盛り上がるものを持ってくるので
少し待っててくださいね」
長瀬は俺を拘束したことを良いことに、
部屋をいったん出て行った。