第1章 落ちて
「仕事場」は本当にすぐ近くだった。
二階建ての広い、ただの仕事場というには豪華な一軒家。
男は足の手当をしながら、他愛も無い話をしてくれる。沈黙が出来ないように。
「寝室は二階にあるんだが、この足で階段を上るのは辛いだろう。一階にはそこのソファーしかないんだが、構わないか?」
彼の目の先には大きな4人がけのソファーが1つ。その斜め向かいには何やら、書斎のような、高そうな机があった。
なんの仕事をしているんだろう。まるで、「社長(ボス)の机」みたいだけど・・・。
「大丈夫、本当にありがとうございます。服も、なにもかも用意してもらって・・・」
そう。びちゃびちゃだった私に簡単なスエットを用意してくれたり、もこもこブランケットをかけてくれたりしたのは全部彼。
手当してくれた足も血が止まってかなり落ち着いた。
「平気さ。いや、こっちこそ、俺のわがままに付き合ってくれてありがとう。明日の朝必ず君を病院に連れていく。それまでゆっくり休むんだ。」
彼はそう言って立ち上がった。
早く、私に関わらないよう忠告するべきだ。
でも、その前に。
「待って、私、あなたの名前が知りたいです。差し支えなければ、教えてくださいませんか・・・」
「おっと、名乗るのが遅くなって申し訳ない。
俺はブローノ・ブチャラティ。君の名前も教えてくれ」
「素敵な名前・・・。私はナマエ。」
「ナマエ・・・・・。」
「はい?」
「いや、なんでもない。いい名前だ。
じゃあ、俺は帰るよ。また明日。」
「ぁ・・・ありがとうございます。本当に、ありがとう・・・」