第4章 揺らして
タクシーは静かな夜道を走り抜ける。
1人になるとやっぱり考えるのはフーゴのことで、自分でも嫌になった。
酔っ払いの頭では難しいことは考えられないけど、とにかく今はフーゴにそばにいて欲しかった。
(会いたいなあ)
センチメンタルになってきた頃、タクシーは私の家の前でとまった。
すぐにドアが開いて運転手さんが「ありがとうございました」なんて言うから、思わずそのまま帰りそうになる。
「あの、お金・・・」
「ブチャラティさんから先に頂いていますので、心配なさらず。」
あの人は、本当に・・・抜け目の無い人。思わず笑ってしまうくらい紳士で・・・。またお礼しなきゃじゃん。アバッキオが言ってたみたいに今度はフーゴを連れて遊びに行こう。
夜の街は静かすぎて、酔っ払いには少し沁みた。
オートロックの自動ドアが開いて、エレベーターのボタンを押した時、同じエレベーターの箱に入ってくる人がいた。
フラフラで、視界がぼやけていたけどその姿は見覚えがありすぎて。
「ナマエ?」
「・・・フーゴ」
静かな空間にエレベーターが上昇する音が鳴る。
なんだかソワソワして、気が動転しそうになる。
「何してたの?こんな時間に」
「書類を取りに行っていました。明日必要なのを忘れていて。」
「そうなんだ・・・。」
さっきまで、会いたくて仕方がなかったのに。
いざ出会うとやたらと緊張してしまう。
「フーゴ、今日ね、すごく楽しかった」
「・・・それはよかったです」
「でも、フーゴも一緒にいて欲しかったなー、なんて」
「どうしてです?」
「だって」
寂しかったもん
「・・・・・」
そうだ。今日、私はフーゴを散々振り回し、嫌な思いをさせてしまった。
私の顔なんて見たくないはずなのに、ばったり、こんな夜中に出会ってしまって迷惑なハズだった。
「だって、きっとフーゴもいたら、もっと楽しかったから」
寂しかったなんて言えなかった。
あんなに、無理にでも一緒にいさせてまだ足りないのかと思われそうで怖かった。
「また、今度はご一緒しますよ」
そして静かにまたドアが開いた。