第6章 飛翔
「…失礼ですが。」
凛とした声が重かった空気を断ち切った。
「…何でしょうか。」
「お互いに少し嘘は止めてみませんか?」
はい?
穏やかな顔で何てことを言うんだこの男は。
横にいたもう1人の調査兵も目を見開いて驚いている。
「私の今日の職務はあなたにアロイス様がいかに素晴らしい方かを説いて、あなたがアロイスに嫁げることをいかに喜んでいたかをアロイス様に報告することです。
だが私はあなたの本心が知りたくなりました。」
言っている意味がわからない。
私の本心なんてなんの意味もないし、
とうの昔に考えることはやめてしまった。
ただ優秀な兄と比べて落ちこぼれた、しかも体に欠陥のある女。
「私は…見ての通りです。ただの世間知らずですよ。
両親に金と天秤にかけられて捨てられた惨めな女です。」
自分で言っていて涙が滲む。
「外に出たいとは思わないのかい?」
ロイがいた頃は…
辛いことばかりだったけれど、あの時の私はお兄ちゃんが足を治してくれたら外に出れると信じていた。
「昔は憧れていました。でも今は……例え自由になったとしても、この足では何も出来ない。外に出たことがないから、世間の常識だってわからない。この家で水が飲めるだけましですよ。
私は結局、ここで何も考えずに生かされている家畜と同じ。嫁ぎ先が見つかっただけ入れる棺が出来てよかったのかもしれません。」
何も言わずに黙って見つめられることに居心地の悪さを感じる。
何も言えないでしょ。
私はこういう人間だから。