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刹那

第2章 たった二人の兄妹


それから月日が経ち 吉法師は信長と名を改め、織田家の当主となって 安土城を築いた。
一国一城の主として、ここまで名が知れ渡るまでには 長い道のりがあった。
父が亡くなり、家中で跡継ぎ争いが起きた。
母も弟すらも 己の夢を叶えるため、生きるため、葵を守るため、この手にかけてきた。
今川、幕府を倒し 武田との戦いに勝利した。

そうして、やっと 今があるのである。

「兄上さま、おはようございます」
すっかり 美しい姫に成長した 葵は、相変わらず兄が大好きだ。
「葵か、いい加減 部屋に忍びこむのをやめろと申しておるだろう」
そう、流石に布団に入ってくるようなことはしないが 昔同様に 朝になると部屋にやってくる この妹を、魔王と恐れられる信長も可愛がっていた。


「御館様、お目覚めにございますか。秀吉にございます」
「猿か」
「あ、秀吉?おはよう」
襖を開けた秀吉は、 ばっと顔をあげると
葵 の方を見て 言った。
「おはよう、じゃございません!姫様は、もう良いお年頃です!いくら兄君だからって 寝ている男の部屋に 入るのは」
「ねぇ、お兄さま。今日は 遠乗りに行かれるのでしょう? 葵も連れてって!」
葵は、秀吉のことを無視することに決めると
兄に 強請った。
「ふっ、葵もくるか」
「信長様!」
「良いではないか、秀吉。それに、今に始まったことでもなかろう」
そう言って立ち上がると、同時に女中が朝餉を運んできた。

葵は信長の向かいに座る。この、5つほど年の離れた兄妹は 昔からこうして朝餉を食べていた。
側に控える秀吉に、
「今日の鷹狩りに、光秀も呼んで参れ。
葵が同行するなら 念の為だ。」
「かしこまりました」
「その後の謁見だが…」
兄はいつも忙しい。父が亡くなってから前より共に過ごす時間が減った。こうして、朝起こしに部屋に入り 朝餉を食べる時間だけが 確実に兄と過ごせる時間だ。それも 戦などでいなければ一人になる。
葵は 無意識に顔を俯けて 箸をくわえる。
その様子を秀吉の話を聞きながら見ていた信長は 声をかける。
「葵。今日の夕方、竹千代がくるぞ」
「え…竹千代様が!?」
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