第11章 時を越えて〜春日山城〜
一方、春日山城。
熱にうなさる舞は、うわ言を繰り返していた。
「…いや…かえりたくない…」
「こわいよ…」
「…いかないで……」
苦しく悲しそうに発せられる言葉に、佐助も義元も目を伏せる。
「苦しそうだね。かわいそうに。」
「………」
(…舞さん、一体何があったんだ……)
食事も摂れず熱にうかされ続ける舞の顔はやつれ、精気がない。
舞に付き添い続ける二人も、目の下には大きなクマができ、憔悴していた。
そんな中、にわかに外が騒がしくなった。
何事かと様子を見に行く義元。
「謙信!家康!」
いるはずのない二人がいることに驚き、声を上げる。
「舞はっ?!」
そう言いながら焦ってやって来る家康とは対照的に謙信は無言のまま。
「こっちだ。熱は相変わらず下がらない。ずっとうなされていて見ていられない。」
そう言いながら、三人で舞の部屋へと向かう。
「謙信様!家康公!」
同じように驚き声を上げる佐助には目もくれず、舞の元へと向かう二人。
「「…舞…」」
舞を見て痛ましそうにそう呟いた。
「診るからあんたたちは外に出てて。」
そう言う家康に
「なぜ、お前が?」
謙信が怒りを込めた表情で聞く。
「俺は医者だから。診察するから出てて!」
強い口調で答えると家康は薬箱を取り出した。
その様子に三人は黙って部屋を出る。
無言で立ちすくむ三人。
しばらくして、家康が襖を開けて顔を出した。
「水分が多めの粥を作ってもらって。りんごがあればすりおろして。あと、葛湯も。一刻後に準備して欲しい。」
素っ気なくそう告げるだけの家康に
「どうなの?」
義元が問いかける。
「持って来た薬は飲ませたけど、何日も食べてないせいで体力の消耗が激しいです。とにかく何か食べさせないと。」
そう答える。
「でも、この状態じゃ食べることなんて…」
佐助が言えば
「口移ししてでも食べさせる。」
それを聞いた謙信が、家康の胸ぐらを掴み
「お前!」
鋭く睨み付けるが
「今はそんなことを言ってる場合じゃない!このまま放っておけば、あの子は死ぬ。命が懸ってる!」
家康の言葉に黙り込み、手を離した。
「厨に伝えて来ます!」
佐助が走って行くのを見て、家康は戻って行った。
その場に立ち尽くす謙信。
強く握った拳には爪が強く食い込んでいた。