第11章 時を越えて〜春日山城〜
「義元様と佐助は部屋に戻って休んでください。」
家康が二人に向かって言う。
「えっ?でも…。」
「俺は大丈夫。何かできることがあったら手伝うよ。」
二人がそう返す。
「何日もろくに寝てないんでしょ。クマがすごいです。二人にまで倒れられたら迷惑だから、さっさと休んでクマを消して来てください。」
「…ふっ。分かったよ。家康、謙信、後はよろしくね。佐助、行こうか。」
「はい。じゃあ、俺もお言葉に甘えます。」
素っ気ない家康の優しさを理解した二人は、自室へと戻って行った。
一刻後、頼んでいたものが運ばれて来た。
それを受け取った家康は
「ちょっと手伝って。」
と謙信に言う。
「何をしたら良いのだ?」
「俺が口に運ぶからあんたは舞の体を起こして、後ろから支えて。」
そう言われ、素直に従う謙信。
家康は未だ意識朦朧の舞の口に匙に乗せた重湯を運んだ。
「舞、頑張って少しでも食べて。」
匙を口に当てると、わずかに開く。そこに少しずつ重湯を流し入れた。
ーーーゴクンッ
「ーーっ!飲み込んだ!舞、その調子。」
そう言いながら、今度は葛湯を含ませる。
それも飲み込んだ。
と思ったら
「………んっ」
「ーーっ!舞!」
「舞!」
小さく声を発した舞に二人が呼びかける。
そうすると
「…んっ、い…えや…す…」
舞がゆっくりと目を開いた。
「舞?分かる?」
「…いえ…やす?」
「うん。家康だよ。良かった。薬が効いたんだね。」
「う…しろは?」
「後ろ?ああ、支えてるのは謙信。」
「けん…しんさ…ま…あったかい…」
何日も寝たきりだったため声がかすれ、上手く話せない。小さな声でゆっくりと話す舞に
「ああ。」
と一言だけ返した謙信の目は潤んでいた。
「舞、もう少し食べて。」
と言って、すりおろしたりんごを口元にやれば、舞が嬉しそうに微笑んだ。
「お…か…さ…」
「お母さん?」
「ねつ…だすと…い…つも…」
「熱出したら母上がいつも食べさせてくれたの?」
ニコリと肯く舞。
「そう。じゃあ、今日は母上の代わりに俺が食べさせてあげるから、早く良くなるようにたくさん食べて。」
「うん。あ…りがと…」
本当に好きだったのだろう、舞はりんごを全て平らげた。
「全部食べたね。いい子。」
家康が褒めると
「うん。家康のおかげだよ。ありがとう。」
その頃にはすっかり声が出るようになった舞が答えた。