第11章 時を越えて〜春日山城〜
そうして夜には舞を歓迎する宴が開かれた。
見ず知らずの自分を諸手を振って迎えてくれる春日山城の人々に戸惑う舞。
「こんなに良くしてもらって良いのかな?」
豪華な食事を食べながらポツリと漏らすと
「謙信は女嫌いで有名なんだ。」
突如、義元が話し出す。
「女嫌い?えっ?じゃあ私も…」
驚いて問い返すと
「舞は別みたいだね。」
「えっ?」
「舞だけは受け入れてるんだよ。」
「そうでしょうか?」
「そうじゃなければ、懐刀なんて渡さないよ?」
「ああ、そっか。御守りくまたんが嬉しかったのかな?それか、あの打ち合い?きっと、謙信様の中で女だけど女じゃない存在なんでしょうね。」
そう頓珍漢な解釈をする舞に
「「はあ〜〜。」」
大きな2つのため息が漏れたが、話し終えて料理に夢中になった舞はそれに気付かなかった。
ーーーその翌日申の刻。一乗谷城。
武将たちは勝利の美酒に酔っていた。
「貴様の働きで早く決着がついた。褒めてやる。飲め。」
「はっ。有難く頂戴いたしまする。」
信長が景鏡に酌をする。
「褒美を遣わす。何を望む?」
そう言われて考え込む景鏡。
「そうですね。噂の姫君にお目にかかってみたく。」
「なんだと?」
「『矢馳せ馬で矢の2本射りを華麗に決め、琴を奏でれば聞いたこともないような美しい音色を奏で、眉目麗しい身姿は天女のようだ』と噂の安土姫君のことです。どんなお方なーーーわっ!」
「斬る」
突如斬りかかって来た謙信に驚く景鏡。
それを見た信長が
「謙信に勝てば会わせてやろう。」
とニヤリと笑う。
「ええっ?いやそれは…。私などが上杉殿に敵うはずは…」
そう答えた景鏡に謙信が呆れたように言う。
「ふんっ。腰抜けめ。お前が言うその姫はこの俺に挑んで来たが?」
「はっ?」
「くっ、貴様の言うその姫は、謙信と政宗を相手に木刀を振り回し、忍びさながらの体術を披露し、くノ一姿で馬を乗り回し、この俺にも食ってかかって来るようなじゃじゃ馬だ。それでも会ってみたいと申すか?」
信長が愉快そうに告げると
「そっ、そのような…。失礼いたしました!褒美は他のものに。」
「くくっ、会わせてやっても良いのだぞ?」
「いっ、いえ。滅相もございません。」
「ふっ、それならば貴様には北近江を与える。しかと治めろ。」
「はっ、精一杯務めさせていただきまする。」
そう言って景鏡はそそくさと座して行った。