第9章 時を越えて〜顕如討伐〜
ドスッーーー
「ぎゃあーーー」
野犬が襲い掛かった音と人の悲鳴がこだまする。
「…あ…れ?」
気付けば、自分には何の衝撃もない。
舞は恐るおそる目を開く。
そして振り返るとーーー
野犬が襲い掛かったのは、敵兵だった。
鋭い牙で敵に喰らいついている。
「…な…んで…」
どうして自分は襲われなかったのか?
状況を飲み込めないまま辺りを良く見ると、佐助たちに加わって敵兵と戦う知らない人たち。
その数は5、6人はいて、しかも皆強い。
あっという間に形勢逆転し、敵兵を縛り上げてしまった。
「舞さん!!大丈夫?!」
慌てて掛け寄って来る佐助を認識した途端に体の力が抜けた。
「おっと。」
足に力が入らなくなり、倒れそうになった舞を佐助が支える。そして、野犬に向かって
「村正、助かったよ。ありがとう。」
そうお礼を述べた。
「…むらまさ?」
「幸村の犬。」
「ーーーっ!ああ!!」
そこでやっと気付く。
なぜ、突然現れたのか。
なぜ、自分を襲わなかったのか。
自分が鳴らした笛に応えて来てくれたのだ。
「村正っ!来てくれて、助けてくれてありがとう!!」
そう叫ぶと、その大きな体に抱きついた。
村正は大人しくされるがままで、尻尾を振りながら舞の顔を舐めている。
「本当に本当にありがとう。」
舞は涙を浮かべて何度も何度もお礼を言った。
「佐助」
そこに義元が近付いて来た。
「義元さん。彼らは一体…?」
「俺にも分からない。でも、敵でないことは間違いないみたいだね。」
そう二人が話すのは、助太刀してくれた者たちのこと。
「とりあえず、話を聞いてみよう。」
「そうですね。」
「舞さん、動ける?」
「うん。もう大丈夫。村正もおいで。」
「助太刀ありがとうございました。」
「ありがとう。助かったよ。…それで、君たちは?」
義元が問うと
「某らは『饗談』の者。信長様の命を受け、姫さまの護衛を。」
「えっ?織田の忍びですか?信長公はそんなこと言ってなかったけど…。」
「はい。御館様は『姫さまに危険が及ばない限りは姿は晒すな』と。」
「なるほど。万が一の保険ですね。」
「左様。」
「それで、そっちの君は?」
「我は『甲賀者』。家康様より舞様の護衛を賜りました。」
「今度は『甲賀者』の方ですか!これはすごいことになったな…。あっ、自分は上杉軍『軒猿』の猿飛佐助と申します。」