第9章 時を越えて〜顕如討伐〜
ーーー同じ頃。
舞と佐助と義元は飯田から、幸村が城主を務める上田城へと向っていた。
「幸村のお城なの?」
「うん。ああ見えて幸村は一国一城の主なんだ。家臣もたくさんいる。」
「そうなんだね。でも、私なんかが行って大丈夫なの?」
「ああ、それは問題ない。幸村がちゃんと話を通してくれてるし、俺と義元さんは何度か訪れたことがあるから、家臣のみなさんと顔見知りだ。何も心配することはないよ。」
「そっか。それなら良かった。」
「上田城はね、景色の美しいところだよ。」
義元の言葉に
「うわぁ。それは楽しみ。」
舞は嬉しそうに笑った。
そんな風に順調に見えた旅に突如、災いが訪れる。
上田城まで後一刻ほどの距離に差しかかった峠の道で、一行の前に歩兵の小隊が現れた。ざっと見る限り兵の数は30余り。兵と言っても、率いているのはどうやら忍びのようだ。
(どこの忍びだ?)
忍び相手なら佐助と義元二人では分が悪過ぎる。戦うのは避けたいと
「君たちどこの者?」
と義元が穏やかに尋ねるも
「明かす必要はない。安土の姫はいただく。」
そう言って、襲いかかって来た。
すぐに応戦する佐助と義元。
「舞さん、逃げて!」
その声に舞は馬で駆け出そうとするが、怯えた馬が言うことを聞かない。馬は諦め、我が足で必死に走る。
その後を敵が追って来ていた。
(どうしよう?こんな時はーーー)
焦る気持ちを抑え、冷静に考える。
(そうだ!)
思いついた舞は、幸村からもらった笛を勢いよく吹いた。
人の耳では鳴っているのかも分からない。
逃げながら舞は何度も笛を鳴らした。
そんな必死の努力にも関わらず、あっという間に敵に追い付かれ囲まれる。
「大人しくしていれば、傷付けはしない。」
そう言って近付いて来る敵に今度は煙玉を投げ付け、辺りにマキビシを撒いて再び駆け出した。
(佐助くんと練習しといて良かった!)
そう安心したのも束の間ーーー。
今度は舞の行く手に大きな野犬が現れた。
このまま進めば野犬に襲われる。最悪、喰われてしまうかもしれない。でも、後ろには迫り来る敵。
(どうしよう?)
悩む舞の目に野犬が後ろ足を蹴り、大きく駆け出したのが見えた。
絶体絶命!!
来るであろう衝撃に恐れ慄いて、舞はギュッと目を閉じた。