第8章 時を越えて〜出陣準備〜
そうして迎えた翌朝。
「美味しいー!」
舞は上機嫌で朝餉を口に運んでいる。
その様子にホッと胸を撫で下ろす三人。安堵して再び箸を進めた。
宿を出発し、再び馬に跨った四人はその日の午の刻前には岐阜城へ到着した。
四人を出迎える岐阜城の家臣たち。その先頭には城主である織田信興。
「兄上、久しゅう。ご無事でなにより。」
と信長に声を掛ける。
「信興、息災であったか?」
それに嬉しそうに答える信長。
「信興様、此度はよろしくお願い申しあげます。」
「信興様、お久しぶりにございます。」
政宗と三成もそれぞれ挨拶をする。
「ああ、お二人ともお元気そうで何より。出立までごゆるりとお過ごしくだされ。」
そう答えた信興が
「して、こちらのお方は?」
と舞の存在に気付き、問いかけた。
「ああ、此奴は俺の拾いものだ。」
ニヤリと笑ってそう答えた信長に
「信長様!『拾いもの』なんてひどい!」
頬を膨らませて文句を言う舞。
「信興様、安土で信長様にお世話になっている舞と申します。よろしくお願います。」
信興に丁寧に頭を下げて挨拶した。
「兄上が女人をお連れなど珍しいと思えば…。くくっ。なるほど。兄上を恐れず食ってかかるとはなかなか興味深いお方だ。舞殿も此度の戦に?」
「いえ、私はここから越後へ向かいます。ちょっと用があって…」
「そうでしたか。舞殿も出立まではどうぞごゆるりとお過ごしになると良い。」
「はい。ありがとうございます!」
と舞は元気に答えた。
この短いやり取りで、信長が舞を気に入っていることを理解した信興は、
(兄上が女人を側に置くとは珍しい。これは楽しみだ。)
と深い笑みを浮かべた。
そんなやり取りを見守る家臣たち。
その中で
(信長の寵姫か?これは良い餌になりそうだ。)
ニヤリと思惑顔を浮かべる男の存在を信長たちは知る由もなかった。