第8章 時を越えて〜出陣準備〜
「三成、見て来い。」
信長にそう言われ、三成が様子を見に行く。
「舞様?失礼します。」
声を掛けるも返事はなく、眠っている様子。
(勘違いだったのでしょうか?)
と思うも、念のために部屋に入り舞の様子を確認する。
「ーーーっ!」
部屋に差し込む月明かりに映し出された舞の頬には涙の後。
思わずそれを指で拭った。
「舞様?大丈夫ですか?」
囁くように声を掛けるも目を覚ます様子はなく、今は穏やかな寝息をたてている。
(無理に起こさない方が良いですね。)
そう考え、頬を撫でて三成は部屋を後にした。
「どうだった?」
戻って来た三成に政宗が尋ねる。
「はい。私が入った時には既に穏やかな眠りに戻られていましたが、頬に涙の痕が…。」
「涙?」
「はい。ご両親を呼んでらっしゃったようなので、寂しくて涙されていたのかもしれません。」
「苦しそうに呼んでたな。たしかあの時『家族にはもう会えない』って言ってたよな?舞のご両親は…。」
「だぶん、そうなのでしょう。あの時の舞様はとても悲しそうな顔をしておられました。おいたわしい…。」
「そうだな。どうにかしてやりたいけど、そういうのは無理に聞き出すのものじゃないしな。とりあえずは見守るしかない。」
「…そうですね。」
信長は二人の会話を黙って聞いていた。
普段のあの明るい舞からは想像もつかない、舞の深い心の傷。
らしくもなく、その傷を癒やせる存在は己でありたいと密かに願った。