第8章 時を越えて〜出陣準備〜
未の刻には春日山の面々も岐阜城へ到着する。
「やあ、舞さん。」
出迎えた舞に佐助が声を掛けた。
「佐助くん!みなさんもお久しぶりです。」
そう答え、嬉しそうに笑う舞。
「天女、君は相変わらず美しいね。君に会えて嬉しいよ。」
恥ずかしい台詞を息をするように吐く信玄。
「は、はあ。」
舞はタジタジだった。
岐阜城の広間へと移動した面々は、信長たちと合流する。
「来たか。ーーー三成。」
さっそく軍議に移ろうとする信長に
「まあ、待て。先に舞と話をさせてくれ。」
信玄はそう言うと
「舞、春日山まではこれを着てくれ。」
と風呂敷を舞に渡した。受け取り、包みを開ける。
「えっ?これは…??」
出て来たのは忍者装束。
「軒猿にはくノ一がいないからね。三ツ者のものを用意した。」
「…なぜ、忍びの格好を?」
「ああ。義元と佐助が付いていると言っても、道中に危険がないわけじゃない。女人の格好だと狙われやすいからね。今川の小隊をつけようかとも思ったが、却って目立つ。それに、忍び装束ならいざという時に君も動きやすいだろう?君を守るための策だ。」
「なるほど!ありがとうございます。遠慮なく着させていただきますね。」
信玄の思いやりに感謝する舞。
信玄も満足そうに肯いた。
「舞さん、俺からも。」
そう言って渡されたのは、懐に入る大きさの巾着袋。
「この中には、マキビシと煙玉が入ってる。マキビシは敵の足元に撒いて、動きを封じるものだ。踏むととても痛くてしばらく動けない。煙玉は投げると濃い煙が出るから、いざという時、敵の追求を逃れるために使って。」
「良いの?ありがとう。なんだか本当に忍びみたい!使わずに辿り着かなきゃだけど、使ってみたい気もするね。」
「気になるなら、後で一緒に使い方を練習しよう。」
「わぁ。本当?ありがとう!」
「あっ、そうだ!マキビシは気を付けないと怪我をするから触る時にはくれぐれも注意して。」
「はーい。」
思いがけない贈り物にウキウキする舞だった。
「俺からは、これをやる。」
幸村から渡されたのは紐が通された小さな棒のようなもの。
「棒?」
見たままを口にする舞に苦笑いした幸村は
「棒じゃねえ。笛だ。」
「笛?」
「おー。これを吹くと俺の山犬が駆けつけてくれる。この距離じゃ無理だけど、10里も進めば届くようになるはずだ。いざという時は使え。山犬の名は『村正』だ。」