第2章 時を越えて〜出会い〜
男性を連れ、死ぬ物狂いで走り、無事に脱出した私は燃え盛る建物を見つめて呆然としていた。
「俺の寝入りを狙い鼠が忍び込んだか。無謀な輩がいたものだ。護衛を全員手にかけ近づくとは… ―――…おい、女。手を離せ。」
「えっ?はっ、はい。」
男性から話しかけられ、呆けた意識が戻って来た直後、慌てて掴んでいた腕を離し初めてその男性を視界に映す。
ものすごく整った顔立ちと緋色の瞳。
時代劇でしか見たことのない甲冑を身に纏った男性は、私の頭上の遥か上から見下ろし、
「どうやら俺は貴様に命を拾われたらしいな。寺の坊主と密通でもしていた遊女だろうが、礼を言ってやる。」
偉そうな時代劇口調で言葉を紡ぐ。
(役者さんなのかな?甲冑姿だし、時代劇口調だし…)
未だ良く回らない頭に浮かんで来るのはそんな事で、自分が炎に包まれた事も刀で切られそうになった事も、彼の言葉の内容もいまいちピンと来なかった。
返事もせずにボーッとする私に、さらに男性は話し続ける。
「おい、貴様。いつまで呆けている。
褒美目当てに俺を助けたのであろう。名はなんと申す?」
「…水崎…舞」
「舞か。この信長を救った褒美を存分に与えてやろう。
貴様の望みはなんだ?」
「褒美?」
「貴様は俺を救った対価を得るために行動を起こしたのであろう?」
「…対価?!」
あまりに心外な男性の言葉に、カーッと血が頭に上る。
「さっきから貴方は何を言ってるんですか?!あんな状況に出くわせば誰だって助けようとするでしょう?誰かを助けるのに理由なんてありません!人の命を救うのに対価や褒美なんて望んだりしない!バカにしないで!!!」
怒りのあまりにそう叫んで私は男性を睨みつけた。
そんな私に男性は一瞬を見開いた目を鋭く細め、
「何の見返りもなく、俺を救っただと?
ふっ、笑わせてくれるわ。俺が誰であるか知らない訳ではあるまいに。」
と不快感を隠さない。
そんな彼の態度にますます苛立った。
「さっき初めて会った貴方が誰かなんて私が知るわけないでしょう!芸能人なのかなんだか知らないけど、自分が有名人だと、誰もが自分を知ってると思ってるんですか?生憎、私は貴方なんて知りませんから。うぬぼれるにも程があります!」
怒りのままに言葉をぶつけた私は「付き合ってられない!」とその場を離れようと彼に背を向けた。