第7章 時を越えて〜顔合わせ〜
「実に楽しい紹介だったよ。織田軍の武将たちの人となりが良く分かった。ありがとう。」
笑顔で言う信玄に、舞は嬉しそうに笑う。
「じゃあ、今度は俺たちの番だな。謙信、俺たちは自己紹介で良いよな?」
「ああ。」
「俺は上杉謙信だ。以上。」
「えっ?それだけ??」
思わず口にした舞に
「なんだ。他に何がある?聞きたいことがあるなら答えてやる。」
(綺麗なオッドアイ…)
不意に向けられた視線で謙信の瞳の色に気付き、食い入るように見つめてしまう。
「……なんだ。」
謙信の言葉にハッとして
「いっ、いえ。なんでもありません。」
慌てて誤魔化した。
「謙信は相変わらず愛想もクソもないなー。」
「うるさい。次はお前だ。さっさとしろ。」
「おー怖い。こわい。」
そう言って両手を挙げた信玄が
「俺は武田信玄ーー」
そう告げた時に
「…風林火山」
舞がポツリと呟く。
「んっ?知っているのかい?」
「はい。『其の疾きこと風の如く、其の徐かなること林の如く、侵掠すること火の如く、動かざること山の如し』。略して『風林火山』ですよね?」
「驚いたなー。美しいだけじゃなく、学もあるのか。正しく天女だ。ますます惹かれるねー。良かったらこの後お茶でもどうかな?」
「はい?」
「信玄様!ここで舞を口説くのはやめろって言っただろ!舞、信玄様の戯言は聞き流せ。」
「う、うん。」
「ひどいなー。幸。俺は『美女を見たら口説かずにはいられない病』なんだからしょうがないだろ。」
「はい、はい。信玄様、しばらく甘味はお預けですから。」
「ひどいなー。幸は。まあ、そういうことでよろしく。」
そう言って、信玄はウィンクした。
「次は俺だね。」
義元が優雅に笑う。
「今川義元。美しいものが好きだよ。舞の矢馳せ馬も琴の音色も美しかった。姿も美しいし、俺の部屋に飾って毎日愛でたいくらいだ。」
「は?はぁ…」
(なんだかこの人って武将っぽくない。平安時代の貴族みたい。)
「舞、義元様は浮世離れしてるから、発言をいちいち間に受けないで。」
家康が言う。
「えっ?うん。分かった。」
(浮世離れ…本当に正しくそんな感じ)
「ひどいなあ。家康。俺は美しいものを美しいと言っているだけだよ?」
「…そうですね。幸村。」
「なんだよ?」
「次はお前でしょ。早くして。」
「あー、はいはい。」
こうして義元の自己紹介は強制終了となった。