第7章 時を越えて〜顔合わせ〜
皆が騒ぐ中、ヒソヒソと話す佐助と幸村。
「あー、そう言えば。」
「何?」
「謙信様が…」
「謙信様?」
「おー。謙信様が無事に織田軍から戻るために、顕如の件を取り引きに使えって。」
「えっ?謙信様がそんな事を…」
「おー。だから、取り引きしてさっさと帰るぞ。」
「了解。」
「なんだ?さっきから何をコソコソと話している?」
気付いた光秀が問い掛ける。
交渉役に当たるのは佐助。
「謙信様より、織田軍へ提案があります。」
「提案だと?」
信長が訝しげに片眉を上げる。
「はい。先日の本能寺の一件の黒幕ですが」
「ああ、顕如であろう。」
「はい。織田軍は顕如の居所はご存知で?」
(黒幕が顕如だともう突き止めたのか。さすがだな。)
「全力で探しているところだ。蛇のようにウロチョロと…なかなか尻尾を出さない。」
光秀が答える。
「そうですか。謙信様の提案とは、俺と幸村を無傷で返す代わりに顕如の居所を情報提供することと、上杉・武田軍が顕如討伐のために織田軍と共闘するという内容です。」
「情報提供のみならず、共闘だと?真意はなんだ?」
信長が佐助をギロリと睨み付ける。
「顕如は織田軍と上杉・武田を戦わせようと画策しています。その目的は織田軍の兵の消耗でしょう。上杉の領地で織田軍の仕業と見せかけた攻撃や略奪が頻発しています。民の反発を謙信様や信玄様の力で今のところはなんとか抑えていますが、それもいつまで持つか…。上杉・武田が織田軍と戦うとすれば、目的は武田の躑躅ヶ崎館とその領地の奪還。それ以外で織田軍とやり合い、兵たちの命を無意味に散らせる事は望んではいません。そういった経緯から『共闘を』と。」
「あー、ちなみに謙信様に限ってはただ単に戦がしたいからってのも大きな理由だけど、公明正大が持論の謙信様は、顕如みたいにコソコソ陰謀を謀るやり方が気に食わないらしい。」
「それならば、早急にここへ来るように伝えろ。」
「承知いたしました。では、俺たちはこれで。」
「ああ。佐助、大儀であった。」
「ありがとうございます。」
「して、真田幸村。」
「なんだよ」
「貴様が秀吉に仕えたいと望むなら、いつでも来るがいい。」
「はっ?!バカ言ってんじゃねえ。俺の主君は信玄様だ!寝言は寝て言えっ!」
怒ってドスドスと部屋を後にする幸村を佐助が慌てて追いかけて行く。
信長は楽しげに笑っていた。