第6章 時を越えて〜現代人トモダチ〜
〜幸村目線②〜
信玄様の元を訪れた佐助は
「信玄様、少し体に触れます。」
と言って、胸の辺りに手をかざした。そのまま目を閉じてじっとしている。
(何やってんだ?)
首を傾げて見ていると、信玄様の咳が治り呼吸が穏やかになって来た。
「えっ?」
思わず声を上げた俺に
「ちょっと民間療法を試してみた。」
と無表情で答える佐助。そしてそのまま信玄様の上体を起こし、背後に回って背中をゆっくり撫で始める。そうすると
「ガハッ」
っと信玄様は苦しそうに大量に喀血した。
「なにやってんだよっ!!!」
慌てて引き剥がそうと立ち上がった俺を制したのは、意外にも信玄様だった。
「幸、大丈夫だ。今の喀血で嘘みたいに楽になった。」
まだ血の残る口元を緩め笑顔で言う信玄様。
良く見ると顔色もずいぶん良くなっている。
相変わらず無表情の佐助は
「良かった。今、施術したのは『気功』と言う民間療法です。体内の悪い気を出したので、これからは楽になるはずです。数日、ゆっくり体を休めれば回復すると思います。」
と説明した。
「な、治ったのか?」
俺が聞けば
「うん。たぶん。もし、また悪くなったら施術するから教えて。」
と眼鏡を押し上げながら答えた。
絶望から一気に浮上した俺が
「良かった…。佐助…ありがとな。本当にありがとう。」
震える声で頭を下げると、佐助は口角を上げて微笑んだように見えた。
そんな事があってから、俺と佐助の距離は急速に近付き、気付けば佐助いわく『ズッ友』と言う深い絆で結ばれた関係へと変化して行った。
そんな日々の中で、佐助が俺たちに告げたのが
『自分は500年後の世から来た。』と言う事実。
最初は信じられなかったが、理路整然とした説明と佐助の日頃の珍妙な言動で俺たちは納得した。
その時に佐助が断言したのが、
『タイムスリップに巻き込んでしまった女性を見付け、元の世に送り帰すことが自分の最優先事項であり、それを叶えるためなら己や仲間の命の犠牲も裏切りもやむを得ない』
と言うもの。
己のみならず仲間の命まで犠牲にするなんて信じられない暴挙だと思ったが、それが佐助の『義』であるならと受け入れた。
謙信様も信玄様も義元も同じだった。
そんな佐助の希望が叶いそうな今、『ズッ友』の俺が手を貸すのは当然だ。
敵陣だろうがクソ食らえだ。
この俺の命に替えてでもお前の希望を叶えてやるからな!