第6章 時を越えて〜現代人トモダチ〜
〜幸村目線〜
昨日に引き続き、安土の姫とやらを皆で見物している最中、佐助が琴に合わせて歌い出した。俺は初めて聞く音色だったが、佐助は良く知っている曲だったようだ。そして、演奏が終わると突如駆け出す佐助。驚いて
「佐助?どこ行くんだ?!」
と声を掛けたが、片手を挙げただけで振り向かずに行ってしまった。
「急にどうしたんだ?」
俺が漏らすと、
「もしかしたら、あの安土の姫君が佐助の探している娘なんじゃないか?」
と信玄様が言い出した。
「なぜ、そう思う?」
俺と同じように疑問に思ったのだろう。謙信様が尋ねれば、
「彼女の琴の音色、あんな曲は聞いたことがない。そして、それに合わせて歌った佐助の詩も。佐助しか知らない事を彼女も知っているのなら…と思ってな。」
「……」
なるほどな。確かに信玄様の言うように、あの曲はこの時代のものではない気がする。それなら佐助が慌てて駆けて行ったのも肯ける。そう思っていると
「幸村」
謙信様が俺を呼んだ。
「はい。」
「お前も佐助と一緒に行け。必ず二人で無事に帰って来い。さもなくば斬る!いざと言う時には、顕如の件を取り引きに使って構わぬ。」
そう指示を出され
「御意」
俺も佐助を追いかけて駆け出した。
「幸〜、姫も一緒でも構わないよ〜。」
と言う信玄様の戯言は無視してやった。
佐助はある日突然現れた。
戦場で死にかけた謙信様の命を救い、そのまま謙信様に連れられて春日山城へとやって来た。
見たこともない衣を纏った無表情の男に俺は警戒心しか抱けなかった。
なのに、そんな男を謙信様は軒猿に入れるという。
「何考えてんですかっ!」
抗議したものの、謙信様が聞き入れるはずもなく、結局その男は城内に部屋を与えられ、不本意にも寝食を共にする羽目になった。
そんな怪しい男が春日山へ来て数日過ぎた頃、信玄様の体調が著しく悪化した。咳が止まらず苦しそうで、薬を飲んでも治らない。いよいよ覚悟を決めなければならなくなったかと絶望に打ちひがれていた俺に、
「少し信玄様のところへ顔出しても良いかな?」
と言って男がやって来た。怪しいものの悪いヤツではないだろうことをここ数日で認めていた俺は
「おー。」
と返事を返し、男を信玄様の元へ連れて行った。