第6章 時を越えて〜現代人トモダチ〜
〜佐助目線〜
昨日、信じられない能力を発揮して俺たちを驚かせた安土の姫君。調べによると、仕事を得るための試練に矢馳せ馬以外にも色々と披露しているらしい。今日は野原で野点と楽器の演奏をすると聞きつけ、俺たちは再び野原へと足を運んだ。
張られた天幕の中で茶を点てているのだろうが、外からではその様子は伺えない。
「今日は空振りだったかなー。」
残念そうに言う信玄様に
「終われば姿を現すであろう。しばし待つぞ。」
と謙信様はらしくない返事をして、その場に座り込んだ。
「気の短い謙信が…珍しい。」
少し驚いた様子の信玄様も腰を下ろす。
それに倣って俺たちもその場に座り、しばらく様子を見ていた。
天幕の外に敷かれた赤い敷物。
その上になにやら風呂敷に包まれた大きなものが置いてある。
(あれはなんだろう?)
疑問に思いながら眺めていると、天幕が開き、中から織田軍の武将たちがゾロゾロと出てきた。その最後尾には、昨日の姫君。
昨日とは違い、色鮮やかな振り袖を纏う姿はやはり美しかった。
「出て来たな。」
幸村が言うと
「やっぱり、いい女だなー。」
相変わらずの信玄様に
「………」
無言の謙信様。
「美しいものはいくら見ても飽きないね。」
これまたいつも通りの義元さんに
「はぁー」
幸村が小さくため息を零した。
天幕から出て来た面々は、敷物の空いた場所に腰を下ろす。そんな中、姫君だけは風呂敷包みの前に座り、包みを解いた。
「琴か…」
誰かがポソリと呟く。
そうして琴を奏で始めた姫君。
♪〜〜♫〜〜〜🎶
「……んっ?」
綺麗な音色に聞き入っていた俺はある事に気付く。
「この曲は……」
「どうした?佐助。」
幸村の問いに
「いや…」
短く答えると、再び音色に耳をすませる。
間違いない。
この曲は500年後のものだ。
音に合わせて自然と歌詞を口ずさむ。
「♪さくら さくら 今ーーー」
俺が好きだった曲だ。懐かしい。
突然歌い出した俺に、みんなびっくりしていたけど、美しい音色と歌詞に黙って耳を傾けていた。
演奏が終わり、姫君が一礼すると拍手が起こった。
その音にハッと我に返った俺は、慌てて立ち上がる。
「佐助っ?どこ行くんだ?!」
幸村の声が聞こえたけど、俺は片手で返事しただけで、そこから駆け出した。
良かった。
やっと、やっと見付けた。
彼女とすぐに話をしなければ。