第5章 時を越えて〜適正試験〜
〜信長目線②〜
シーンと静まり返る我々にいたたまれなくなったのか
「ダメでしたか?」
と舞が不安げに尋ねて来た。
何か言ってやらねばと言葉を探すがーー
「………」
何も出て来ない。それでも何とか
「貴様のその『器械体操』と『忍びの鍛錬』に何の違いがある?」
と訳の分からない質問をしてしまった。
「ぶぶっ」
っと誰かが吹き出す音が聞こえたが、それを無視して舞を見やる。
「えっ?忍びとの違いですか?!うーん、忍び自体が良く分からないけど…。そうですねー。………あっ!器械体操は戦わないので武器は持ちません!」
「はっ?」
我が耳を疑った。なんだその突拍子もない答えは!
「ああっ、ダメでしたか?それなら、えーと、うーんと……なんだろう?忍びはお仕事とか??あっ、でも体操選手はそれがお仕事だし…。服装が違うって言っても体操の服を説明しようがないし……。あーもう、分かんない。思いつかない!だいたい、信長様がおかしな事聞くからーーー」
「それは悪かったな。」
一人ブツブツ言う舞に、ニヤリと笑って言えば
「あっ!!いっ、今のはちがっ、あっあの間違えたって言うかーー」
独り言が漏れていた事に気付いた舞が慌てて釈明する。
「「「ブーッ」」」
見守っていた奴らが我慢できずに笑い出す。
それを見て恥ずかしそうに真っ赤になる舞。
(やはり、貴様はおもしろい。俺を心の底から楽しませる)
そう思う俺の口角も気づかぬうちに上がっていた。
「舞」
「はっ、はい。」
「『器械体操』、悪くなかった。貴様に忍びの才があることは存分に理解した。貴様のその心意気を買って、貴様を饗談に入れてやろう。」
と言えば、
「えっ?忍びですか?わっ、私はそんなつもりじゃ。忍びのアピールなんてしてませんから!器械体操は体操で忍びじゃないんです!!」
意味不明な言葉で必死に弁解して来る。
全く
この上なく、愉快だ。
そう思い、ニヤリと笑った俺を見て
「あーっ、信長様!また私をからかったんですね!!もうっ」
と今度は膨れっ面で睨んで来る。
「くくっ、貴様は誠におもしろい。これからも俺を楽しませよ。」
舞には当面飽きそうにないな。
いや、むしろ、永遠に楽しませてくれそうだ。
ああ、俺は、本当に良い拾い物をした。