第5章 時を越えて〜適正試験〜
〜信長目線〜
おかしな女を拾った。
舞を安土に連れ帰ったのは、ほんの戯れだった。
俺の命を救った褒美をやると告げると烈火の如く怒り、捲し立てて来た。
そのような女子は初めてで興味が湧いた。
聞けば500年後の世から『たいむすりっぷ』して来たと言う。
すること成すこと突拍子もなく、飽きぬ。誠に愉快だ。
この面白い玩具をしばらく側に置いてみる事にする。
飽きれば何処ぞへかやれば良い。そのような軽い気持ちだった。
城で働かせろと言う舞の適正を見るために催された幾多の試練。
その結果はこの俺の予想を遥かに越えるものばかりだった。
心底楽しんだこの日の酒は久方ぶりに美味く感じた。
明けて翌日ーーー
今日は舞の時代の舞踏『器械体操』なるものを披露すると言う。俺の好む『曲舞』とは違うのか?考えを巡らせていた俺は広間に姿を現した舞の格好に度肝を抜かれた。
「舞!なんだ、その格好は!!」
秀吉が目を吊り上げて怒り出す。
まあ、秀吉が怒るのも無理はない。やって来た舞はくノ一姿だったからだ。
「なんだ『器械体操』はやめて、饗談に入るのか?」
政宗が茶化すが、
「いいえ。今からお見せする器械体操は小袖や袴だと都合が悪いので、こちらをお借りしました。」
至って真面目ない表情で答える舞。
今度は何をして楽しませてくれるのか?童のように胸が踊った俺は
「良い。早く始めろ。」
そう一言告げて開始を促した。
「はい!では、みなさん、両端に避けてください。信長様、脇息をお借りしますね。」
そう言って皆を部屋の隅に追いやると、俺から脇息を奪い
「始めます!」
と言って動き出した。
(ーーー……なんだこれは!)
忍びのように身軽く体をクルクルと回転させたかと思えば、大きく高く飛び跳ねる。そのまま体を後ろに空中回転。それを繰り返したかと思えば、今度は両手をついて後方にクルクルと回っていった。
広間を縦横無尽に動き回り、脇息に両手をついて体を逆さまに持ち上げる。そのまま両手を動かし、体の向きを変える。最後は空中で体を捻りながら2回転し、着地して直立した。
「はぁ、はぁーーー。終わりです。」
そう言って舞は頭を下げたが、何と反応すれば良いのか?
これは忍びの鍛錬か?
政宗の茶化しはあながち間違いでもなかったのでは?
他の奴らも同じように思っていたのであろう。
皆、惚けた顔をしていた。