第5章 時を越えて〜適正試験〜
〜光秀目線〜
全く奇妙な女が現れたものだ。
本能寺で舞が気を失った後に御館様の元へ駆け付けた俺は、その怪しい女の監視も兼ねて自ら安土へと運んだ。
奇妙な衣を纏った奇妙な女。女が倒れた側にあった奇妙な荷物も女のものだろう。道中に一度目を覚ました女は、俺の名前を呟きながら再び意識を失った。
「お前は一体何者だ?」
そう問い掛けながら、厳しい目で観察しても分からなかった。
女の荷物の中身を確認するも、奇妙なものばかりで何なのかは分からない。謎は深まるばかりだった。
女は、500年後の世からやって来たと語り…挙げ句の果てには自分の知る歴史では本能寺で俺が謀反を起こし信長様を自死に追いやったなどと言い出した。次々に発せられる突拍子もない発言の連続に、さすがの俺も動揺したが、それと同時に舞が時を越えてやって来たと言う事実を認めざるを得なかった。舞を取り巻く何もかもが現世では異色だったからだ。
今日も今日とて、矢馳せ馬では2本射りを軽々と決め、政宗と互角に打ち合う…一体、お前は何なのだ?
500年後の世はこんな女ばかりが存在するのか?
意趣返しのつもりで提案した舞の適正試験。
貶めるつもりが、逆に舞の株を上げる結果になるとは…。
全く持って読めない女だ。
剣術の後に披露された茶の湯では、これまた目を見張るほどに美しい所作で美味い茶を立てて皆を唸らせ、華を生ければ、見たこともないほどに斬新で目を見張るほどに美しい仕上がり。
この俺が嫌味のひとつも言えぬとは…。
まあ、俺もまだまだと言うことか。
栗色がかった艶のある柔らかい髪に白く透き通るような肌。人形のような造作に華奢な体。見た目とは相反して、豪胆な気質。それに加えて親しみやすく明るい性格。そして、今日披露した特技の数々…。
この娘に夢中になる男が多数発生するのは間違いない。
信長様や武将たちも例外ではないだろう。
俺には合わない、陽の光が似合うこの娘が誰の手に落ちるのか…高みの見物と行かせてもらおうか。
時々、横やりを入れて楽しませてもらおう。
ああ、そう言えば、号泣する舞の背中をさすって落ち着かせてやったのは、『飴と鞭』の飴に過ぎない。尋問するための基本だ。思惑通りまんまと引っかかった舞の素直さには若干驚いたが…。ククッ。