第5章 時を越えて〜適正試験〜
〜秀吉目線〜
舞の適正試験が始まった。
初っ端の『矢馳せ馬』には度肝を抜かれた。本当に目ん玉が飛び出すんじゃないかってくらい驚いた。あの信長様さえ目を剥いていたほどだ。
観客もあれだけいたし、安土の姫の噂はあっという間に広がるだろう。
身に危険が及ばないようにしっかり守ってやらなきゃいけないな。
そんな事を考えながら、次の種目となる剣術を見るために城内の鍛錬場へと向かう。
舞を相手に真剣を使う訳にもいかないので、今日は木刀を用いる事になっている。相手をするのは政宗だ。理由は『本人が希望したから』ただそれだけ。女相手に一戦構えたいなんて、アイツの頭の中は一体どうなってんだ?
そして、いよいよ政宗と舞の対戦が始まった。
舞は木刀を両手で顔の位置に掲げ、構えている。
はっきり言って隙だらけだ。
これは一瞬で勝負がつくな。
そう思っていたのだが…
カンッ、ガツッ
2人の木刀がぶつかる音が響き渡る。
隙だらけだと思っていた舞は意外にも守りが固い。
政宗から繰り出される素早い攻撃をこれまた素早く木刀でかわし、逆に攻撃を仕掛けて行く舞。
最初は手抜き気味だった政宗がだんだん本気になって来ているようにさえ見える。
そんな2人の激しい打ち合いは四半刻近く続いた。
そしてーー
ガンッ
カラカラカラ…
遂に決着がついた。
政宗が舞の木刀を跳ね飛ばしたのだ。
汗をびっしょり搔いて
「ハァハァハァーー」と大きく息をする舞は、にっこり笑って
「参りました。」
と政宗に頭を下げた後に、床に大の字になって寝転んだ。しばらくして呼吸が落ち着くと起き上がり、
「はぁー、楽しかった!やっぱり政宗は強いんだねぇ。誰かに負けたのは久しぶりだけど、なんだか気分爽快だよ。」
と良く聞けば恐ろしい発言をして
「湯浴みして着替えて来ます。」
と言って鍛錬場を出て行った。
残った政宗に尋ねる。
「で、どうだったんだ?」
「あー、そうだな。まぁ、あの体だから打たれても重くはない。ただ、太刀筋の見極めはすごかったな。どこに打っても止められて、本音を言うとちょっと焦った。最後はアイツの木刀が手汗で滑って飛んでったけど、滑らなければ未だに打ち合ってたかもな。」
「政宗にそこまで言わせるなんてすごいな。」
「ああ、その辺の奴らじゃ到底勝てねーだろ。」
一体、何者なんだアイツは……。
心配事が増えそうだ。