第5章 時を越えて〜適正試験〜
〜春日山組(佐助目線)〜
数日前から偵察のために安土入りした謙信様、信玄様、義元さん、幸村と俺の5人は、安土城下で面白い噂話を耳にした。
『安土の姫が矢馳せ馬を披露するらしい』
その噂話の信憑性はさておき、安土城下の野原で矢馳せ馬が行われるのは本当らしく、早朝からバタバタと準備がなされていた。
矢馳せ馬を披露するのが誰だろうと、信長と武将たちが見学に訪れるのは間違いない。宿敵の様子を知れるチャンスとあって、当然5人で出向く事になった。
「噂通り、麗しい姫の矢馳せ馬なら嬉しいんだけどなー。」
女人大好きな信玄様は期待に胸を躍らせている。
「ふんっ。女子が矢馳せ馬などできるものか。期待するほど無駄だ。」
女嫌いの謙信様が信玄様を一刀両断する。
「まあまあ、誰がするのだとしても矢馳せ馬は美しいものだよ。見物人として楽しもうじゃないか。」
美しいもの好きの義元さんは矢馳せ馬にしか興味がないらしい。
「あーもー。3人とも大人しく見ててくださいよ。」
自由人3人のお世話係の幸村は始まる前から頭を抱えている。
そんなメンバーで野原を見渡せる高台で開始を待っていた。
そして、馬が勢いよく駆け出す。
乗っているのはーーー
「女だ!」
幸村が思わず声を上げる。
そう確かに女性だった。
あんなに華奢な体なのに、所作は流れるように綺麗で無駄がなく、安定している。俺たちは無言で見入っていた。
そして、彼女は見事に3本とも的の中心を射った。
「おおーーーっ!」
途端に沸き起こる大歓声。
俺たちは相変わらず無言だった。
「すげーな。あの女。」
幸村がポツリと漏らしたと同時に、観衆のアンコールに応える事にした様子の彼女は再び馬に跨り走り出した。
「「「「「ーーーっ!!」」」」」
誰も言葉が出なかった。
彼女は2本の矢を同時に射って3つの的に的中させた。
信じられなかった。
アンビリーバボーだ。
謙信様も信玄様も義元さんも幸村も、そしてもちろん俺も。
『偵察』という本来の目的はすっかり忘れ、目の前で起こった出来事に、いや彼女にただただ見惚れ続けていた。
無言で歩く帰り道ーーー
「あの姫を連れ帰りたいなー。」
信玄様がポツリと漏らした一言に異論や疑問を唱える者は誰もいない。
そう、誰もが『側に置きたい』、『もっと知りたい』そう思わせる魅力が彼女にはあった。