第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
「兄貴…なぜここに…」
秀吉の口から無意識に紡ぎ出された言葉に
「久しぶりだな。藤吉郎…いや、今は秀吉か。」
兄の藤之助が反応する。
「ああ」
そう短く返事しながら秀吉は考えていた。
十数年も音信不通だった兄がなぜ突然訪ねて来たのか?
自分の居場所をどうやって知ったのか?
そもそも、なぜ信長様は兄貴を広間へ通したのか…
様々な疑問が頭を過ぎる。
そんな秀吉の胸の内を見透かしたように
「俺がお前を訪ねて来たのには訳がある。実はーー」
そう言って藤之助が話し出した。
「そうだったのか…」
全てを聞き終えた秀吉はそう言葉にするのがやっとだった。幼い自分が知る由もなかった己の生い立ち。ずっと自分を苦しめて来た思いが昇華されて行く。舞の言うように、自分が母に愛されていたことを知り、胸が熱くなる。
「お前の居所だけはなかなか掴めなくてな。会いに来るのが遅くなって悪かった。」
藤之助は最後にそう詫びた。
「…いや。わざわざ遠くまで会いに来てくれてありがとう。兄貴に話を聞けて良かったよ。」
秀吉は藤之助に笑顔でそう言うと
「御館様、ご配慮賜りありがとうございました。」
信長に頭を下げた。
兄弟のやり取りを黙って見守っていた信長は
「猿、良い顔になったな。」
秀吉の言葉に答えるでもなく言う。そして
「まだ兄弟で募る話もあろうが、今はこのくらいにして貴様は俺に付いて来い。」
そう言って歩き出す信長に
「御意」
秀吉も慌てて付いて行く。
信長の向かった先は天主だった。
「これに着替えろ。」
「ーーーっ!!」
着いて早々に信長から渡された着物を見て、秀吉は驚く。
「…これは…」
信じられないといった風に声を上げる秀吉に
「つべこべ言わずに早く着替えろ。」
信長はそう言うと、張り出しに行ってしまう。
「ありがとうございます。」
涙目になった秀吉が信長の背中に深く礼をした。