第5章 時を越えて〜適正試験〜
〜家康目線〜
突然現れて「未来から来た」という弱そうで変な女…舞の適正を見る試験が始まる。初っ端はなんと『矢馳せ馬』。舞本人の希望を尊重した形だけど、正直言って矢馳せ馬はかなり難易度が高い。
馬術の能力だけでも弓術の技術だけでも難しい。それらを超えた能力が必要だ。男でもできるヤツなんて極わずか。武将の中でも確実に3本的中される事ができるのは、俺と信長様くらいだろう。
それを女子のしかも、あんな華奢で弱そうな子がするなんて無謀にも程がある!と思うけど、本人がやりたいと言うのだからしょうがない。
いつも間にか集まったすごい数の観客の前で泣く事にならないと良いけど…。本人より緊張してるんじゃないかと思うくらい、みんな固い表情を浮かべて見守っていた。
「お前のタイミングで始めて良いからな。」
秀吉さんがそう声を掛けると舞は黙って肯き、馬を移動させる。
目を閉じて深呼吸し、意識を集中しているようだ。
そしてーーー
開かれた目に俺は釘付けになった。
強い意志のこもった澄んだ瞳。
とてつもなく綺麗だった。
それから舞は、俺たちの前を颯爽と駆け抜け、見惚れるほどに美しい所作で3つの的の中心を射った。
呼吸も瞬きすることも忘れ、ただただその美しい姿を見続ける。
ああ、これは抗えない。
俺の心の中心もズドンと射抜かれた。
こんなの好きにならないはずがない。
弱いようで強く美しい。
そんなあんたに俺は恋に落ちたんだ。
もう、あんたしか見えないーー。
大歓声の後、観客の要望に応えて再び矢馳せ馬に挑んだ舞。
「今度は2本ずつ射る」と本人は言ってたけど、そんな事、俺だってやったことない。
興奮と大歓声で正常な判断ができなくなったのでは?と心配する俺の、いや俺たちの心配をよそに2本打ちも見事に成功させた。
見ていた誰もが驚きに呆然としている中
「1本は外れたかー。惜しかったなあ。」
と舞本人は的中するのが当然のごとく、あっけらかんとしている。
あれを成功させるなんてすごいなんてもんじゃない。
一体、この子は何者なんだろう?
知れば知るほど興味が湧く。
そして好きになる。
俺だけじゃない。
きっと、他の武将たちも信長様も同じ気持ちだろう。
あんたの心を手に入れるのは、かなり険しい道のりになりそうだけど、今回ばかりは誰にも譲れない。
絶対に引かない!
そう強く決意して、拳をグッと握った。