第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
〜秀吉目線〜
俺に別れを告げた舞は、その日のうちに坂本城へと立った。突然のことに驚いた政宗や家康から
「どうなってるんですか!」
「お前たち、なにやってんだよ!」
そう責められたが
「…俺がふられたんだ」
俺がそう告げると、二人とも黙り込み、それ以上は何も言わなかった。見送りも断わり、人知れず行ってしまった舞はもう安土へは戻って来ないだろう。いくら安土から坂本城が近いとは言え、俺なんかに訪ねて来られても舞は喜ばない。俺に詫びながら涙を溜めるその顔が、俺が見る舞の最後の姿となった。
それからしばらくは、現実を受け止められず過ごした。でも、日を追うごとに舞がいないということを実感して行く。
「秀吉さん」
そう呼ぶ声も笑顔も、もうここにはない。
舞がいないだけで、全ての景色は白黒になった。何を食べても飲んでも味などない。楽しいとか嬉しいなどと言う気持ちも無くなった。ただあるのは悲しみと虚しさ。死んだ方がマシだと思うほどの苦しみだった。
それでも日々は過ぎて行く。やらなければならないことは山ほどある。いつしか俺は心を無にして淡々と時を過ごすようになっていた。
そうして始まった、毛利との決戦。織田軍は上杉、武田と組み、毛利討伐に力を注ぐ。俺は前線に出ることを志願した。家康や三成は止めたが、信長様が
「好きにしろ」
と言ってくださり、俺は最前線で指揮を執ることとなった。
出陣の前日、ふらりと俺の天幕にやって来た光秀が
「お前が死ぬ前に伝えたいことがあれば、その者への伝言を頼まれてやろう。」
そう俺に告げた。光秀の言いたいことは分かっている。明日の戦で最前線に立つ俺が命を落とす可能性は高い。死ぬ前に舞に伝えたいことを言えという光秀なりの気遣いだった。
「…そうだな。じゃあ『幸せだった』って伝えてくれ。」
「……」
「『幸せを教えてくれてありがとな』って伝えてくれるか?」
そう答えた俺に
「…分かった。」
光秀はそれだけ言って天幕を出て行く。去り際に一度だけ振り返り
「秀吉、死ぬなよ。」
そう言った光秀の目が潤んでいたのは気のせいか。
「お前が『死ぬ前に』って言ったくせに何言ってんだ。」
そう返した俺に何も答えず、光秀は去って行った。
舞…俺はお前と出会えて幸せだったよ。
二度と会えなくても、この命が尽きたとしてもお前を愛してる。
ずっと愛している。