第20章 時を越えて〜分岐〜秀吉ver. ※R18あり
〜信長目線〜
俺と秀吉との出会いはなかなか愉快だった。初対面の何者かも知らぬ俺に秀吉は
「家来にしてくれないか?」
と突然請うて来た。身なりを見る限り、武士ではない。でもなぜか興味を引かれた俺は
「付いて来い」
そう言って、秀吉を連れ帰った。
秀吉は身分の低い出の者で『藤吉郎』という名しかなかった。俺が『秀吉』と名付け、苗字は秀吉本人が決めた。武士の教養が全く無い秀吉が俺の元でやって行くには血を吐くような努力が必要だった。屈辱を味わい、死ぬほど苦しい目にも合っただろう。だが、秀吉は一言の泣き言も言わず、逃げ出すこともなく俺に仕え続け、数年後には俺の右腕と言われるまでになり、誰もが認める織田軍の重臣へと成り上がった。
秀吉は真面目で誠実な男だ。俺の中では三本の指に入るほどに信頼している。『この男は絶対に裏切らない』そう信じられる数少ない人間だった。
秀吉は家臣からの信頼も厚い。生まれ持った才能なのか、秀吉は人の懐に入るのが非常に上手く、本人が意識してそうしているのかは定かではないが、皆が言う『人誑し』は秀吉のためにあるような言葉だった。元々、能力のある男だったのだろう。武術も教養も何もかもをものすごい早さで己のものにし、たった数年で日ノ本でも名の知れる武将となった。
そんな誰もが羨むような出世街道を歩む秀吉の自己評価は非常に低い。その原因を直接聞いたことなどないが、出自のせいだろうということは予想できた。全く馬鹿馬鹿しい。俺が成し遂げようとしている『天下布武』の意味を此奴は本当に分かっているのか?
『身分に囚われない世を作ろうとする己が、身分や血筋に囚われてどうするのだ。』
秀吉にそう言ってやれば良いのかもしれないが、俺や周りが何と言ったところで、秀吉本人が乗り越えなければ意味がない。それが分かっているからこそ、何も言わなかった。
様子がおかしくなった理由も予測がつく。
『己と舞とでは釣り合わない』
恐らくそんなくだらないことだろう。
くだらないことで悩み舞を苦しめるのであれば、秀吉であろうと許しはしない。好いた女の一人も幸いにできないような男ならそれまでだ。
家康には非難の目で見られたが
(秀吉なら乗り越えるであろう)
そう結論を出し、見て見ぬふりをすることにした。